『アリスとテレスのまぼろし工場』感想

Fischer'sのモトキが生き物の吐息というものは生臭いものなのだと語ってくれていたのを引用しようと思ったのだが、膨大な動画アーカイブのどれに収められた言葉だったか分からずじまいになったので、そういうエピソードがあったという紹介だけに留めておく。…

【ネタバレ注意】杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮文庫、2023年)感想

ネタバレ厳禁と書いてあったが帯だったので許してほしい。なにをどう言及するにしても本書の情報に少しでも触れたならそれだけである種のネタバレだろう。読むにあたっては注意してほしい。 友人からの勧めで読んだ。「世界でいちばん透きとおった物語」と聞…

伊藤計劃『虐殺器官』(ハヤカワ文庫JA電子版、2012年)

書き手は「自分が知っていること」をではなく、「今知りつつあること」を、遅れて知りつつある読者に向けて説明するときに、もっとも美しく、もっとも論理的で、もっとも自由闊達な文章を書く。*1 孫引きである。引用元は小坂井敏晶『増補 責任という虚構』…

木緒なち『ぼくたちのリメイク』4巻中途まで

つらいページは早く繰る。どうやらそれが自分の性癖であるようだ。 かつてダレン・シャンの「デモナータ」シリーズを読んでいたとき、主人公の一人が洞窟に閉じ込められてしまう場面があった。巻のだいぶ終盤の出来事で、残り少ないページでどうやって洞窟か…

【ネタバレ注意】映画『映画大好きポンポさん』/杉谷庄吾【人間プラモ】『映画大好きポンポさん』(MFC ジーンピクシブシリーズ、2017年)

以前から予告映像で気になっていた映画『竜とそばかすの姫』が公開となり、映画館まで出向く回数を減らすべく他に何か面白そうな上映作品がないか確認していたら見つけたのが『映画大好きポンポさん』であった。初めて見るタイトルだったが、原作はpixivコミ…

【ネタバレ注意】『モンスターハンター』

本稿は本日(2021年3月26日)日本公開の映画『モンスターハンター』のネタバレを含む感想記事である。同日に発売されたNintendo Switch用ソフト『モンスターハンターライズ』とは全く関係ないため、注意されたし。 最初に注意が必要かと思われるのは、本作は…

好き勝手に書く

Hatena Blogは90日更新がないと広告が表示されるらしい。日頃は管理画面しか開かず、記事の表示確認は行っていなかったため気付かなかった。流石に見栄えが悪いため、これを表示させなくて良い程度には更新していくことを決意する。 とは言え相変わらず、日…

『STAND BY ME ドラえもん』

『STAND BY ME ドラえもん』は2014年夏に公開されたドラえもんの映画作品である。例年3月に公開されている所謂「大長編」とは異なる立ち位置で、人気のある短編作品をオムニバス的に収録しつつ、1本の長編映画として筋の通ったストーリー展開に仕立てている…

齋藤孝『読書力』(岩波新書,2001年)

本書*1は,日本人に読書力の涵養を訴える本である。著者の齋藤孝は,Eテレ『にほんごであそぼ』の総合指導や著書『声に出して読みたい日本語』などで知られる。 私が先日来読書への動機付けに飢えていることは既に他の記事で言及した通りだが,その欲求は本…

【ネタバレ注意】『ドラえもん のび太の新恐竜』

例年より5ヶ月ほど遅れて今年のドラえもん映画が今日公開された。早速観て来たので,少し感想を垂れ流そうと思う。本稿にはネタバレが含まれることになるから,注意されたし。 まず本編開始前の予告で気になった作品が2本。 1本目は『クレヨンしんちゃん ラ…

ドラえもん のび太と助詞の使われ方

ドラえもん映画作品は1980年から例年3月に公開されている。2020年は新型コロナウイルスの影響により,公開予定日が従来予定されていた3月6日(金)から同年8月7日(金)に変更された*1。この作品群は声優陣が交代した2005年を境として,それより前に公開され…

『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』

本作品は2020年春アニメとしてMBS等で放映されていた。1クール12話完結。私は全話をdアニメストアにて視聴した。原作は山口悟による同名のライトノベルシリーズである。原作小説は2014年7月から小説家になろうにて連載され*1,2015年に一迅社文庫アイリスか…

瀬名秀明(藤子・F・不二雄原作)『小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団』(小学館Kindle版,2011年)

『ドラえもん のび太と鉄人兵団』が名作であることは疑いようがない。その小説版の存在はなんとなく知っていたものの,今迄食指が動かず読まないままでいた。先日,AmazonのPrime Readingに本タイトル*1が追加されていたのを発見し,ついに手に取るに至った。…

永田希『積読こそが完全な読書術である』(イースト・プレス,2020年)

本書*1は,その表題の通り,積読の指南書である。 このような表題の書籍を購ったのは,当然,私が多くの本を積読していることの正当性を確保したかったからである。私が読書術系統の指南書を購入するのはこれが初めてであったが,この本は私の目的意識にかな…

忘れるために書くということ

1年ほど前の記事で,私は「忘れないために書くか忘れるために書くか」というものを書いた。 kishiryu.hatenablog.com 自戒も込めて,今改めてこのことについて考えてみることにする。 最近,このブログの更新が滞っている。私が如何に物臭な人間であるかが如…

【ネタバレ注意】『メイドインアビス:深き魂の黎明』

本作は2020年1月17日に公開された「メイドインアビス」シリーズの新作映画である。映倫による鑑賞区分はR15+。 本作の感想を述べる前に,本作鑑賞時における私の「メイドインアビス」シリーズ鑑賞暦を述べておけば,原作漫画は完全に未読であり,アニメ放映…

瀬田貞二『幼い子の文学〔第25版〕』(中公新書,2017年)

本書*1は,あとがき*2によれば,瀬田が都立日比谷図書館で1976年6月から半年ほどの間,月1回のペースで行った児童図書館講座「おはなし」の講演録である。瀬田が亡くなったのは1979年であるから,本書では晩年の瀬田が児童文学に対してどのように向き合い,…

『オールザッツ漫才2019』白桃ピーチよぴぴ

令和元年最後にして最大の衝撃が生まれた。正確にはまだ約2日残ってはいるものの,そう言い切って過言ではない存在が私の目の前に現れたのである。 白桃ピーチよぴぴ,だ。 たまたまHDの整理でもするかとTVを点ければオールザッツ漫才の放映中であった。折角…

ミルクボーイ「コーンフレーク」「もなか」『M-1グランプリ2019』

今月22日に放送された『M-1グランプリ2019』は吉本興業所属結成12年目のミルクボーイが優勝を飾った。私はお笑いが多少好きな一般人だと自分では思っており,おそらくそのような自己認識の人間としては当然と言って憚る必要もなかろうと思うが,彼らは全くの…

映画『蛇にピアス』

『蛇にピアス』は2008年に公開された蜷川幸雄監督の映画である。原作は第130回芥川賞受賞作の一つである,金原ひとみ『蛇にピアス』という小説だ。第130回芥川賞は綿矢りさ『蹴りたい背中』とのダブル受賞で,当時綿矢が19歳11箇月と最年少受賞を果たし現在…

『オーバーロードⅢ』第6話の「歌う林檎亭」

「歌う林檎亭」は,バハルス帝国のワーカーチームであるフォーサイトが根城にしている宿屋である*1。転移後の世界は転移前の世界と異なる文字を使用しているようであり,アニメでも架空文字で表現されている。アニメ第3期第6話の12分38秒辺りに「歌う林檎亭…

『超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』第1話

まず,私はこの作品の原作を知らず,またアニメも第2話以降の視聴をしていない前提なので,本稿における考察の全てが誤っている可能性があることを断っておく。さらにここで考察している程度のことは世のスコッパー諸賢が既に考察済みであろうことも断ってお…

立岩陽一郎=楊井人文『ファクトチェックとは何か』(岩波ブックレット,2018年)

本書*1はファクトチェックという行為がどのような営みであるのかを概説するもので,書中の表現を借りれば「ファクトチェックについて日本で初めて詳しく紹介」*2した本であったらしい。2019年現在は,本書の著者の1人である立岩がより厚い(と言っても176ペ…

【ネタバレ注意】川田両悟『アキトはカードを引くようです』(MF文庫J,2019年)

本書*1は,株式会社KADOKAWAの書籍4冊連続刊行企画「スレ発ラノベ4」の最後の1冊として,10月25日に発売された。既に続刊の刊行が決定しており,来月25日に第2巻の発売が予定されている。本作品も例によってやる夫スレ発祥であり,原作は『やる夫はカードを…

『BLUE GENDER』『BLUE GENDER THE WARRIOR』

『BLUE GENDER』(以下「本編」という。)は1999年から2000年にかけて放送された2クールのロボットアニメで,『BLUE GENDER THE WARRIOR』(以下「新版」という。)は本編を一部再編集し,シナリオを大きく書き換えた2002年のアニメ作品である(映画なのかOV…

【ネタバレ注意】荻原数馬『クレイジー・キッチン』(カドカワBOOKS,2019年)

本書*1は株式会社KADOKAWAの書籍4冊連続刊行企画「スレ発ラノベ4」の1冊として,今年10月10日に発売された。以前のエントリーでも紹介した通り,「スレ発ラノベ4」で書籍化される作品は全てWEB掲示板,通称やる夫スレがその発祥である。本書の基となった作品…

瀬畑源『公文書管理と民主主義:なぜ,公文書は残されなければならないのか』(岩波ブックレット,2019年)

本書*1は,岩波ブックレットというシリーズから刊行された記念すべき1000号目の冊子である*2。私は岩波ブックレットの本を手に取るのはこれが初めてで,その薄さに驚きを禁じ得なかった。薄い入門書というとOxford University PressのVery Short Introductio…

対案が無ければ反論してはならないのか:献血コラボポスターを例として

様々な文脈で,対案が無ければ反論・反対・批判をするな,と語られることがある。一見すると当然のように思えるし,私も中高生くらいの時分にはこの考え方に賛同していた。しかし,この言説は安易にあらゆる場面において適用して良いものなのだろうか。 最近…

スレ発ラノベ4

私の知らぬ間に世間は柔軟に大きな躍動をしていたようで,今月25日から1か月間のうちに,ある共通点を持った4作のライトノベルが刊行される。その共通点とはすなわち,「やる夫スレ発祥」ということである。一連の企画の名称は「スレ発ラノベ4」とされている…

角田由紀子『性と法律:変わったこと,変えたいこと』(岩波新書,2013年)

本書*1は,性とそれに関連する種々の法律について,主として女性の視点から,どのように規定されているかを眺めているものである。 まず言及しておかねばならないことは,本書が刊行された2013年から現在に至るまでに,本書が前提としている法律の内容に変化…