読書感想文

【ネタバレ注意】杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮文庫、2023年)感想

ネタバレ厳禁と書いてあったが帯だったので許してほしい。なにをどう言及するにしても本書の情報に少しでも触れたならそれだけである種のネタバレだろう。読むにあたっては注意してほしい。 友人からの勧めで読んだ。「世界でいちばん透きとおった物語」と聞…

伊藤計劃『虐殺器官』(ハヤカワ文庫JA電子版、2012年)

書き手は「自分が知っていること」をではなく、「今知りつつあること」を、遅れて知りつつある読者に向けて説明するときに、もっとも美しく、もっとも論理的で、もっとも自由闊達な文章を書く。*1 孫引きである。引用元は小坂井敏晶『増補 責任という虚構』…

木緒なち『ぼくたちのリメイク』4巻中途まで

つらいページは早く繰る。どうやらそれが自分の性癖であるようだ。 かつてダレン・シャンの「デモナータ」シリーズを読んでいたとき、主人公の一人が洞窟に閉じ込められてしまう場面があった。巻のだいぶ終盤の出来事で、残り少ないページでどうやって洞窟か…

【ネタバレ注意】映画『映画大好きポンポさん』/杉谷庄吾【人間プラモ】『映画大好きポンポさん』(MFC ジーンピクシブシリーズ、2017年)

以前から予告映像で気になっていた映画『竜とそばかすの姫』が公開となり、映画館まで出向く回数を減らすべく他に何か面白そうな上映作品がないか確認していたら見つけたのが『映画大好きポンポさん』であった。初めて見るタイトルだったが、原作はpixivコミ…

齋藤孝『読書力』(岩波新書,2001年)

本書*1は,日本人に読書力の涵養を訴える本である。著者の齋藤孝は,Eテレ『にほんごであそぼ』の総合指導や著書『声に出して読みたい日本語』などで知られる。 私が先日来読書への動機付けに飢えていることは既に他の記事で言及した通りだが,その欲求は本…

瀬名秀明(藤子・F・不二雄原作)『小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団』(小学館Kindle版,2011年)

『ドラえもん のび太と鉄人兵団』が名作であることは疑いようがない。その小説版の存在はなんとなく知っていたものの,今迄食指が動かず読まないままでいた。先日,AmazonのPrime Readingに本タイトル*1が追加されていたのを発見し,ついに手に取るに至った。…

永田希『積読こそが完全な読書術である』(イースト・プレス,2020年)

本書*1は,その表題の通り,積読の指南書である。 このような表題の書籍を購ったのは,当然,私が多くの本を積読していることの正当性を確保したかったからである。私が読書術系統の指南書を購入するのはこれが初めてであったが,この本は私の目的意識にかな…

瀬田貞二『幼い子の文学〔第25版〕』(中公新書,2017年)

本書*1は,あとがき*2によれば,瀬田が都立日比谷図書館で1976年6月から半年ほどの間,月1回のペースで行った児童図書館講座「おはなし」の講演録である。瀬田が亡くなったのは1979年であるから,本書では晩年の瀬田が児童文学に対してどのように向き合い,…

立岩陽一郎=楊井人文『ファクトチェックとは何か』(岩波ブックレット,2018年)

本書*1はファクトチェックという行為がどのような営みであるのかを概説するもので,書中の表現を借りれば「ファクトチェックについて日本で初めて詳しく紹介」*2した本であったらしい。2019年現在は,本書の著者の1人である立岩がより厚い(と言っても176ペ…

【ネタバレ注意】川田両悟『アキトはカードを引くようです』(MF文庫J,2019年)

本書*1は,株式会社KADOKAWAの書籍4冊連続刊行企画「スレ発ラノベ4」の最後の1冊として,10月25日に発売された。既に続刊の刊行が決定しており,来月25日に第2巻の発売が予定されている。本作品も例によってやる夫スレ発祥であり,原作は『やる夫はカードを…

【ネタバレ注意】荻原数馬『クレイジー・キッチン』(カドカワBOOKS,2019年)

本書*1は株式会社KADOKAWAの書籍4冊連続刊行企画「スレ発ラノベ4」の1冊として,今年10月10日に発売された。以前のエントリーでも紹介した通り,「スレ発ラノベ4」で書籍化される作品は全てWEB掲示板,通称やる夫スレがその発祥である。本書の基となった作品…

瀬畑源『公文書管理と民主主義:なぜ,公文書は残されなければならないのか』(岩波ブックレット,2019年)

本書*1は,岩波ブックレットというシリーズから刊行された記念すべき1000号目の冊子である*2。私は岩波ブックレットの本を手に取るのはこれが初めてで,その薄さに驚きを禁じ得なかった。薄い入門書というとOxford University PressのVery Short Introductio…

スレ発ラノベ4

私の知らぬ間に世間は柔軟に大きな躍動をしていたようで,今月25日から1か月間のうちに,ある共通点を持った4作のライトノベルが刊行される。その共通点とはすなわち,「やる夫スレ発祥」ということである。一連の企画の名称は「スレ発ラノベ4」とされている…

角田由紀子『性と法律:変わったこと,変えたいこと』(岩波新書,2013年)

本書*1は,性とそれに関連する種々の法律について,主として女性の視点から,どのように規定されているかを眺めているものである。 まず言及しておかねばならないことは,本書が刊行された2013年から現在に至るまでに,本書が前提としている法律の内容に変化…

三崎律日『奇書の世界史:歴史を動かす“ヤバい書物”の物語』(KADOKAWA,2019年)

『奇書の世界史』*1とは,正式名称を『奇書の世界史:歴史を動かす“ヤバい書物”の物語』という,2019年に発売された三崎律日による奇書の解説書です。著者はAlt+F4名義で「世界の奇書をゆっくり解説」という動画シリーズを投稿しており*2,『奇書の世界史』…

篠田英朗『憲法学の病』(新潮新書,2019年)

どのようにして本書*1の購入に至ったのか,最近出版された本にも拘らず判然としない。Twitterから流れてきた何かしらに目を付けたのだと思うのだが,目にしたと思われるツイートが見つからないから,調査は諦めるしかない。 帯のあおり文に著者は「国際政治…

久保田哲『帝国会議:西洋の衝撃から誕生までの格闘』(中公新書,2018年)

1日1章ずつ位のゆったりとしたペースで約1週間かけて今日読み終えたのが『帝国会議』*1である。 私は高校で日本史を履修しなかったが故に(本当は履修していないといけなかったのかもしれないがカリキュラムの都合がどうだったのかは定かではない),明治時…

『オーバーロード』を読み進めてみて

タスク管理本を読み終えた翌日にも拘らず全くタスクを進めることなくオーバーロードを読み耽ってしまった。本当は少しだけ読み進めるつもりだったのが,手に取った巻を最後まで読もうと思ってしまい,それがちょうど第5巻と上下巻の上巻だったものだから結局…

倉下忠憲『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』(星海社新書,2019年)

Twitterで目にして気になり,書籍のまとめ買いのついでに購入したのが『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』*1だった。 ネットでのレビューを見てみると,実用書というよりは哲学書であるとか,具体性に乏しいとか,あるいは既にタスク管理…

『ゴブリンスレイヤー』関連

2018年秋アニメに『ゴブリンスレイヤー』という作品があった。放送開始以前からマークしていたわけではなく,その後に流れてきた情報から源流がやる夫スレにあると知った。そうであるならば一度はチェックしておかなければならないと思いつつ,中々重い腰を…

宇野重規『保守主義とは何か〔第3版〕』(中公新書,2017年)

私が『保守主義とは何か』*1を手に取った直接的な理由が何かあったはずなのだが,あいにくと何年か前のことなのでよく覚えていない。従前より私にとって保守というのは何となく漠然とした言葉で,きちんとした意義を知らないままに雰囲気で使っている言葉で…

丸山くがね『オーバーロード1 不死者の王』(KADOKAWAエンターブレイン,2012年)

面白くて小説を一気読みしてしまうなどいつぶりだっただろうか。そもそもここ数年まともに小説を読んでいなかったのだからその年数は推して知るべしだが,それこそ下手をすれば10年くらいはなかった経験かもしれない。 私はオーバーロードにアニメから入った…

谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』(角川文庫,2019年)

昨日には『涼宮ハルヒの憂鬱』*1を読み終えていたのだが,どうにもパソコンの調子がよろしくなく,結局代替機を引っ張り出してそちらからブログにアクセスしている。 涼宮ハルヒシリーズは,私たちの世代のオタクであれば知らない者がない,本書の裏表紙にあ…

竹内洋『教養主義の没落〔第15版〕』(中公新書,2017年)

昨日だったか今朝方だったか,『教養主義の没落』*1を読み終えた。 先日の『韓非子』に続いて中公新書を読了したわけだが,どうやら私は中公新書の場合,1時間に50ページを読み進めるのが自分のペースらしい。この自分のペースがどれくらい遅いのかを調べる…

「星屑桜」がおもしろい

トーチというリイド社運営のweb漫画サイトがあり,私もいくつかの作品を楽しませてもらっている。先頃久々にサイトにアクセスしたところ,不吉霊二の「あばよ ~ベイビーイッツユー~」という漫画が更新されていた。第1話しか掲載されていなかったときにたま…

冨谷至『韓非子〔再版〕』(中公新書,2008年)

インプット強化を図るために多読しようなどと言ってから,新書を1冊読むのに1週間以上もかかってしまった。どうやらこれが現在の私の地力らしい。ここからどれほど強化できるかの方が重要であると思いたい。 最初に手に取ることにしたのは冨谷至の『韓非子』…