瀬畑源『公文書管理と民主主義:なぜ,公文書は残されなければならないのか』(岩波ブックレット,2019年)
本書*1は,岩波ブックレットというシリーズから刊行された記念すべき1000号目の冊子である*2。私は岩波ブックレットの本を手に取るのはこれが初めてで,その薄さに驚きを禁じ得なかった。薄い入門書というとOxford University PressのVery Short Introductions(VSI)シリーズが思い浮かぶが,岩波ブックレットはVSIよりテーマが細分化されているためか,背幅もより薄いように見える。本書は63ページという驚異の薄さである。
本書を読み進めていって最初に感じたことは,文体の軽快さである。論文調の文章というよりは座談会の音声反訳のような印象を受けた。それもそのはずで,本書は著者の講演記録が増補加筆の上で書籍化されたものだったのである*3。文中に(笑)が登場する*4のにもこれで合点がいく。
内容は正に表紙に要約された通りであって,少ないページ数の中で「関連法の理念や歴史を簡潔にまとめ,公文書管理と情報公開が民主主義を支える重要な機能であることを伝え」ている。現代的な公文書管理の必要性が日本で認識され始めてからまだ日が浅いが故に,このような芸当が可能であったのかもしれない。
公文書管理の基本的な前提知識を本書で確認しておけば,厚めの本でより詳細な議論を学習するための取っ掛かりは十分に作れるだろうと感じた。そのためのまさに〈はじめの一冊〉として好適なのではなかろうか。