ドラえもん のび太と助詞の使われ方

ドラえもん映画作品は1980年から例年3月に公開されている。2020年は新型コロナウイルスの影響により,公開予定日が従来予定されていた3月6日(金)から同年8月7日(金)に変更された*1。この作品群は声優陣が交代した2005年を境として,それより前に公開されたものを「第1期」,それより後に公開されたものを「第2期」と慣例的に呼ぶようである(丁度境界である2005年は作品の公開がなかった)。ドラえもんの映画作品群は,基本的にその表題が「ドラえもん のび太の○○」または「ドラえもん のび太と○○」のいずれかの形式で付けられている。すなわち,表題において「のび太」の後に続く助詞が「の」であるときと「と」であるときの2つの場合が存在する。この表題の命名規則の例外は,2009年以降に公開された第1期作品のリメイク作品であり,それらは「ドラえもん 新・のび太の」または「ドラえもん 新・のび太と」と名付けられているものの,これらの場合においても「のび太の」と「のび太と」の二類型に合流することは変わらない。私は先日『ドラえもん のび太の月面探査記』を視聴し,ついに現在公開されたすべてのドラえもん映画作品を少なくとも一度ずつ視聴したと胸を張って言えるようになったため,従来から考察していたこの表題の命名における助詞使用法二類型の区別について改めて考える機会を設けてみた。

 

思うに,まず第1期と第2期を貫く大原則として,「のび太」の後に続く要素が「○○の○○」の形をとる場合には必ず助詞に「と」が用いられる。これは以下に挙げる他のいかなる法則にも優先する。

他の法則は第1期と第2期を分けて考える必要がある。

第1期については,まず,『ドラえもん のび太の恐竜』から『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』までの初期6作品は全て助詞「の」が用いられている。

次に,第7作以降の作品については,「のび太」の後に続く要素が「物語」に分類されると解釈される場合は助詞「の」が用いられ,「のび太」の後に続く要素に「ドラえもんのび太」の2人が所属していないと解釈される場合は助詞「と」が用いられると考えられる。二類型であるのだから,一方を定義できれば排他的に他方を確定可能と思われるかもしれないが,私はそこまで強い法則を発見できず,区別のために解釈を用いる方法しか見つけられなかったため,両者についてのそれぞれの解釈方法を準備した。これについては第7作以降の作品について,後続要素が「○○の○○」になっていないものを公開年順に解釈しながら確認してみたい。

第7作『ドラえもん のび太と鉄人兵団』。「鉄人兵団」にはドラえもんのび太も所属していないため「と」が用いられていると解釈できる。

第9作『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』。「パラレル西遊記」は中国の白話小説西遊記』を題材としており,物語の要素であるから「の」が用いられていると解釈できる。

第10作『ドラえもん のび太の日本誕生』。「日本誕生」という抽象的な要素が後続しているが,2人が日本を誕生させる行為をなしていると解釈して,それを物語であると考えて「の」が用いられていると考えられよう。

第11作『ドラえもん のび太とアニマル惑星』。「アニマル惑星」に2人は所属していないため「と」が用いられていると解釈できる。

第12作『ドラえもん のび太ドラビアンナイト』。「ドラビアンナイト」はアラビアンナイトすなわち千夜一夜物語を題材としており,物語の要素であるから「の」が用いられていると解釈できる。

第15作『ドラえもん のび太と夢幻三剣士』。「夢幻三剣士」はアレクサンドル・デュマ・ペールの小説『三銃士』を題材としており,そこから一見すると物語であるから「の」を用いるものと思われそうだが,実際には「と」が用いられている。これを解釈するに,ドラえもんのび太の作中における役割が関係しているように思われる。作中の「夢幻三剣士」において,のび太は白銀の剣士「ノビタニヤン」,ドラえもんは魔法使い「ドラモン」になる。また,ジャイアンが「ジャイトス」,スネ夫が「スネミス」,しずかがユミルメ国王女「シズカリア」とその変装である旅の剣士「シズカール」兼,妖精の「シルク」という役をそれぞれ担っている(尚,シルクとしずかは現実的にリンクしているわけではない模様である)。『三銃士』における三銃士はアトス,アラミス,ポルトスの3人であり,主人公のダルタニャンは勘定に入っていない。「夢幻三剣士」においては,ノビタニヤン,ジャイトス,スネミスの3人で三剣士ないし夢幻三剣士と名乗っている場面もあれば,ノビタニヤンは白銀の剣士として独立し,ジャイトス,スネミス,シズカールの3人で夢幻三剣士を名乗っている場面も存在する*2。夢幻三剣士に含まれる人員は変動しているか,または三剣士と言いつつ4人であるかの解釈が可能であると思うが,いずれの場合でもドラモンは含まれていない。このとき,ドラえもんのび太の2人が夢幻三剣士に所属しているわけではないから「と」が使われているという解釈が可能ではないかと考える。また本作は,本作以前の題材が存在する「の」作品において題材となった作品が作中に直接登場したのとは異なり,題材作品が直接登場するわけではないことも一つの鍵となるかも知れない。

第16作『ドラえもん のび太の創世日記』。「創世日記」はそれ自体が作中に登場するわけではなく,ひみつ道具「創世セット」を用いてその「観察日記」を付けるというストーリーからその名が付けられたと思われる*3。2人が創世日記を付ける一連の物語だと強引に解釈して「の」が使われている理由と出来ないだろうか。あるいは,創世の日々の記録と考えて物語とする解釈も可能かもしれない。

第17作『ドラえもん のび太と銀河超特急』。銀河超特急にドラえもんのび太の2人は所属していないため「と」が用いられていると解釈できる。

第18作『ドラえもん のび太のねじ巻き都市冒険記』。後続要素が「冒険記」で括られており,物語の要素であるから「の」が用いられていると解釈できる。

第19作『ドラえもん のび太の南海大冒険』。後続要素が「大冒険」で括られており,物語の要素であるから「の」が用いられていると解釈できる。

第20作『ドラえもん のび太の宇宙漂流記』。後続要素が「記」で括られており,物語の要素であるから「の」が用いられていると解釈できる。

第21作『ドラえもん のび太太陽王伝説』。ドラえもんのび太のどちらも太陽王ではないものの,後続要素が「伝説」で括られているため,2人と太陽王に纏わる一連の物語として「の」が用いられていると解釈できないか。

第23作『ドラえもん のび太とロボット王国』。2人はロボット王国に所属していないため「と」が用いられていると解釈できる。

第24作『ドラえもん のび太とふしぎ風使い』。2人は風使いに所属していないため「と」が用いられていると解釈できる。

第25作『ドラえもん のび太のワンニャン時空伝』。後続要素が「伝」で括られており,物語の要素であるから「の」が用いられていると解釈できる。

以上が第1期の命名法則についての考察である。

 

 

第2期については,第1期よりも単純な法則になっていると思われる。

まず,リメイク作品については,リメイク元の作品の助詞の使用法に従う。

そして,「のび太」の後に続く要素が「○○の○○」となっていない場合は全て助詞の「の」が用いられる。

以上である。非常に単純な法則であるが,2020年現在の最新作『ドラえもん のび太の新恐竜』に至るまで,第2期の作品群についてはこれだけで全てが説明可能である。ただし,第2期の作品の制作は継続しているため,今後これらに則らない新たな命名がなされた時は追加で更なる考察が必要となる。

*1:https://doraeiga.com/2020/news/

*2:夢幻三剣士にノビタニヤンを含むと解される場面は,シンエイ動画ほか『映画ドラえもん のび太と夢幻三剣士』(1994年)38分54秒辺り,42分3秒辺り,55分8秒辺り(原作漫画では藤子・F・不二雄ドラえもん のび太と夢幻三剣士」『藤子・F・不二雄大全集 大長編ドラえもん 5』(小学館,2012年)383頁,460頁,463-464頁)。ノビタニヤンを含まないと解される場面はシンエイ動画ほか・同1時間12分6秒辺り(同じく原作漫画では藤子・同518頁)。

*3:題材には創世記があったのかもしれない