【ネタバレ注意】映画『映画大好きポンポさん』/杉谷庄吾【人間プラモ】『映画大好きポンポさん』(MFC ジーンピクシブシリーズ、2017年)

以前から予告映像で気になっていた映画『竜とそばかすの姫』が公開となり、映画館まで出向く回数を減らすべく他に何か面白そうな上映作品がないか確認していたら見つけたのが『映画大好きポンポさん』であった。初めて見るタイトルだったが、原作はpixivコミックで公開されている同名作品らしかった。本記事の表題にも書いた通り、既に書籍化されている。

 

本作映画のストーリーは、敏腕映画プロデューサー・ポンポさんの付き人のようなことをしている監督志望の青年・ジーン君が、ポンポさんの書いた脚本でついに1本の映画を作るというものである。こう言ってしまうと単純だが、映画を作るという創作行為が映画になっており、作品完成までの物語はある程度満足のいくものだった。

どちらかといえば、個人的により気に入ったのは画面の構図や効果である。素人目にも分かりやすい光と影の対比や画面分割がふんだんに使われていたほか、登場人物の行動に付けられたエフェクトで心理的な衝撃が上手く表されていたように思う。

 

ストーリー中、やや感覚的ではあるがスッキリしなかったのは2点で、1点目は銀行員・アランについて、2点目はラストの台詞についてである。

1点目。アランはジーン君の高校の同級生だった銀行員で、資金繰りで困ったことになったジーン君の監督作に融資できるよう奔走するのだが、その解決方法に無理矢理感が否めなかった。同級生エピソードとなる回想でもこれといって印象的な個性付けがなされていたわけではなく、ストーリー上いてもいなくてもよいキャラクターになってしまっていた気がする。本作の主人公はジーン君であり、基本的に彼の視点で物語は進むが、ジーン君の監督作でヒロインを務めるナタリーも準主人公のような扱いで、話が彼女の視点になることもあった。そこに3人目の視点でアランが挿入され、視点が散ってしまったのかも知れない。私は本作視聴後にその足で本屋に向かい、原作本を購入*1して読んだのだが、こちらにはアランは登場していなかった。原作本はジーン君監督作の撮影の中身にはそこまで深く立ち入っておらず、その部分の膨らましは映画独自の要素のようであり、どうやらアランはその中で生まれた人物だったようだ。ならば私が感じた違和感もそこまで的外れではないのかも知れない。

2点目。見事に監督作がニャカデミー賞*2に輝き、インタビュアーから作品の最も気に入っている点を聞かれたジーン君は、それは上映時間が90分であることと答える。これはプロデューサーのポンポさんが好むのが90分以下の作品であることを受けてジーン君が見出した答えであると思われる。粋な回答に見えるが、少々疑問を生じさせる答えでもあった。前提として、ポンポさんとの会話の中で、ジーン君自身は1分でも長く楽しめるから長い映画の方が好みであることが示されていた。そして、ジーン君は監督作を撮る上で、その作品を観てもらいたい誰か1人のために制作するという方針を念頭に置いていた。一時はポンポさんに観てもらうために作ることを想起させる描写があったものの、最終的には映画を観て救われる誰かに観てもらいたいというような話の中で、すなわち映画に救われる過去の自分のために作る、というような発言をジーン君は残している(はず。スクリプトがなく記憶頼みになるため断言はできないが、およそこのような感じだったと思う)。そしてこの自分に観てほしいという件は原作にはなく、ここも映画独自である。映画の中でもジーン君が特に90分にこだわるような描写はなかったと思うので、ジーン君の想定観客が過去の自分だとすると、この点を気に入る理由の直接的なヒントが良く分からず仕舞いに感じた。これが例えば2時間と答えたのであったならば、ポンポさんへ向けた諧謔としてすんなり消化できたような気もする。

 

本作映画の全体としてはかなり好みの部類であり、原作1巻も非常に楽しめたから、折に付けて続刊を揃えていきたい。

なお、原作本1巻のメインエピソード全6話は現在pixivコミックの作品ページで無料公開中の模様で、ストーリーだけならこれで補完可能である。書籍版にはコラム、おまけ漫画、あとがきが追加されていた。

comic.pixiv.net

また、原作本の続刊はナンバリングとスピンオフが入り乱れて刊行されており、原作者自らTwitterで読む順(刊行順)を教えてくれているので参考にされたし。

 

*1:1巻だけ。本シリーズはナンバリング3巻、スピンオフ2巻、オムニバス1巻(これも実質スピンオフか?)が出版されている。ひとまず1巻全編と2巻のKindle試し読みに目を通したが、映画の中核的原作は1巻のみだと思われる。

*2:言うまでもなくアカデミー賞が元であろう。ちなみに本作の舞台は「ニャリウッド」である。