【ネタバレ注意】『ドラえもん のび太の新恐竜』

例年より5ヶ月ほど遅れて今年のドラえもん映画が今日公開された。早速観て来たので,少し感想を垂れ流そうと思う。本稿にはネタバレが含まれることになるから,注意されたし。

 

まず本編開始前の予告で気になった作品が2本。

1本目は『クレヨンしんちゃん ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』で,公開日が9月11日(金)に決定したらしい。公式サイト*1を確認したところ今月頭には公表されていた情報だったようだが入手できていたかったため甚く驚いた。来月の楽しみとなった。

2本目は『STAND BY ME ドラえもん 2』。こちらは現在のところ公開日未定である。予告映像を見る限り「のび太結婚前夜」と「おばあちゃんのおもいで」が主軸となるのかと思いきや,「のび太結婚前夜」は前作の『STAND BY ME ドラえもん』で取り上げられていたらしい。前作を未鑑賞であるのがもどかしい限りであるがそれは措くとして,主題として結婚式当日にのび太が逃げるということが大々的に取り上げられていたのが若干気に掛かる。結婚前夜に結婚を取り止めようとした静香との対比であるのだろうか。少々違和感があるものの,評価は実際に鑑賞してから下したい。

 

本編について。

ドラえもん のび太の恐竜』を下敷きにしつつ,様々なドラえもん映画作品の要素を取り入れつつも独自色を模索した意欲作と言って良いと思われる。ゲストキャラクターがのび太のために翼を広げて飛べるようになるのは『ドラえもん のび太と翼の勇者たち』のグースケが思い起こされるし,ひみつ道具「TOMOチョコレート」(「ともチョコ」か?)でジャイアンと友達になったティラノサウルスのゴラはどことなく『ドラえもん のび太のねじ巻き都市冒険記』(映画版)に登場したジャイアンのぬいぐるみのティラを思い出す。ともチョコについても,『ドラミちゃん ハロー恐竜キッズ!!』の「おたすけ大福」を彷彿とさせる。ピー助の登場は,感情的には喜ばしいが,理性的には少々本作の解釈が難しくなり,複雑な心境である。

本作は,化石発掘体験コーナーで恐竜のたまごの化石と思しき石を見つけたのび太がタイムふろしきで化石をたまごの状態まで復元しそれを孵化させたことで,双子の新種の恐竜・キューとミューが誕生し,のび太が2匹をある程度大きくなるまで育ててから彼らの故郷である白亜紀の日本まで送り届けるというのが大まかなストーリーである。のび太が新恐竜を過去に帰して生き延びさせようとした結果,現在まで続く鳥類としての恐竜の繁栄に繋がっているという点を見れば,タイムパラドックスの起こり方が他の多くの作品と同じく大魔境パターンに類すると見えなくもないものの,やはりそもそもの発端である恐竜のたまごがループしても戻ってこない点に鑑みればやはり恐竜パターンのタイムパラドックスであると言えよう。これは2011年の『ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ天使たち~』以来のことであり,第2期作品としてはリメイク作品を除けば恐らく初,オリジナル作品としては1988年の『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』以来のことだと思われる。

本作ではのび太たちとタイムパトロールが敵対的に接触する。タイムパトロール隊員のジルがジャイアンスネ夫を暴力的に拘束するのは未来の世界的に問題がないのか気になる所ではあるものの,ともあれ敵対存在としてのタイムパトロールを描いたのは意欲的だったのではないか。ジルに関していえば,タイムパトロールの長官に何度も意見を具申していて,また通常の制服も着用していないことから彼の権限がどういうものなのかも気になる。また,のび太とタイムパトロールの関係について,タイムパトロールがチェックカードという歴史の成り立ちに関係するかを判断するひみつ道具のび太に用いて,のび太が歴史の関係者だから手出しせずに行動を見守る,というのは,のび太のヒーロー的役割が浮き彫りになり過ぎてしまっている感が否めない。のび太が行動した結果として歴史の中で一定の役割を持つことになるべきという私の勝手な役割への期待からすると因果が逆転してしまっている。チェックカードについては『T・Pぼん』辺りに詳しいことが有りそうだと思っていれば,Wikipediaによると本当にそのようであるので,可能であればいつか確認してみたい。

のび太とキューは互いに逆上がりができない,空を飛べないという弱点を抱えており,その克服のため切磋琢磨するという描写が点在しているが,序盤でキューにのび太が逆上がりを克服しようとしている様を見せた場面があったか記憶が怪しい。私には無かったか,有っても非常に印象が薄かったように思え,その後の努力への繋がりが弱かったように思われた。また,序盤でのび太がテストで0点ではなく3点を取ったこととも関連するように思われるが,ラストでのび太は遂に自分で努力して逆上がりに成功する。ここに本作でののび太が進歩する存在として扱われている様子を確認できるかもしれない。丁度先日読み終えた『ドラえもん論:ラジカルな「弱さ」の思想』*2的な進歩できない存在としてののび太とはまた違って一面であると思料されるが,本作の主たる対象層である子供たちはここから何を受け取るであろうか。

本作の主題歌はMr.Chirdrenが担当し,異例の2曲体制である。1つは「Birthday」で,作中では中盤に劇中歌的に1度,エンディングで1度の計2度使われたように思う。もう1つは「君と重ねたモノローグ」で,こちらはクライマックスで1度使用されたように思う。またクライマックスに関して,本作では新恐竜との別れでのび太たちが号泣していなかったのが印象的だった。『ドラえもん のび太の恐竜2006』ではしこたま泣いていたと記憶しており,その辺りのくどさがなく爽やかな別れとなっていたのが好印象だ。

 

最後に来年の映画の予告について。

本編エンディングの後に,2021年のドラえもん映画公開決定のお知らせが流れた。宇宙救命ボートが前進する後ろを巨大な宇宙戦艦的な何かが追いかけ,輪のある星が映された映像だった。公開時期がいつになるか分からないが,去年に続きまた宇宙をテーマにするだろうことは確実であると思われるため,期待して待ちたい。

 

・2020年8月10日追記

書こうと思って忘れていたことが一点あったので追記してみる。

中盤で静香がのび太のどんなところが好きかを述べる場面が存在するのだが,その場面には『のび太結婚前夜』との連続性を感じさせられ,『STAND BY ME ドラえもん 2』への導線を確保しようとしているような印象を受けた。本作単独で成立しないという類いの表現ではないものの,少々鼻に付く場面だったように思う。

*1:https://www.shinchan-movie.com/news/index.html#news200801_2

*2:杉田俊介ドラえもん論:ラジカルな「弱さ」の思想』(2020年,ele-king books)。