篠田英朗『憲法学の病』(新潮新書,2019年)

どのようにして本書*1の購入に至ったのか,最近出版された本にも拘らず判然としない。Twitterから流れてきた何かしらに目を付けたのだと思うのだが,目にしたと思われるツイートが見つからないから,調査は諦めるしかない。

帯のあおり文に著者は「国際政治学者」とあったから,計量テキスト分析などを用いて解析ソフトを駆使しながらデータやグラフをぶん回していく本なのかと思ったら,テキストは参照しても普通に(?)文意を論理的類推なり解釈なりしてそこに筆者の見解を加えて述べていくという一般的評論分的なスタイルであったから,その点では個人的に読み辛い書ではなかった。

著者は国際政治学者の中でも平和構築が専門らしく,その立場から一部の東大系憲法学者らを糾弾している(具体的には宮沢俊義小林直樹芦部信喜樋口陽一高橋和之,長谷部恭男,石川健治佐藤功,高見勝利,木村草太*2。うち,個別に章立てて批判されているのは宮沢俊義,長谷部恭男,石川健治,木村草太の4人。)。

本書は全2部構成で,第1部では「憲法ガラパゴス主義から解放する」と題して,憲法9条,憲法前文,集団的自衛権,砂川判決,芦田修正について考察しており,第2部では「ガラパゴス主義の起源と現状」と題して,宮沢俊義教授から木村草太教授に至るまで4人の憲法学者が打ち立てた独自の概念とされるものを切って捨てている。

内容は篠田氏の論理展開に成程と頷ける部分もあれば,憶測を前提としてそのまま論を進めている部分もあるように見え,ある程度注意しながら読み進める必要があると感じられた。第2部11の長谷部教授批判は,私が長谷部教授の論稿に明るくないためか,全体として篠田氏が何を問題として捉えているのか良く分からなかった。

ひとつの新書として面白い本であったとは思うものの,それでもやはり途中途中に挟まれる「軽口」のような文体は苦手であった。

篠田氏は本書と同旨の新書*3を刊行していたらしく,同書の内容等について篠田氏と憲法学者水島朝穂氏とがインターネット上で舌戦を繰り広げてたのだが,両氏の激論は私と同じように「軽口」が苦手な人は覗きに行かない方が賢明であろう。

 

本書内で誤字と思われる記述は1箇所既に発見している。151ページに「freeom from want」とあるが,同ページに「freedom from fear」とあるところからしても,恐らく「freeom」ではなく「freedom」ではなかろうかと思われる。

*1:篠田英朗『憲法学の病』(新潮新書,2019年)

*2:篠田・前掲注(1)8頁。

*3:篠田英朗『ほんとうの憲法:戦後日本憲法学批判』(ちくま新書,2017年)