【ネタバレ注意】映画『キングダム』

映画『キングダム』は原泰久の漫画『キングダム』を原作とする実写の邦画である。

漫画の実写化は何かにつけて酷評されることが多い印象だ。それはそもそも映画自体が本当にどうしようもなく面白くない場合もあれば,事前に漫画を読んで有した知識や漫画のコマとコマの間の行間について各人が補完した内容に齟齬があることに由来する場合もあるだろう。

私は原作漫画を読んだことがないから,事前知識という点ではほぼニュートラルである。その上で映画をそれ単体の作品として感想を述べるのであれば,そんなに悪い出来ではなかったと思う。

舞台が古代中国戦国時代の秦であることはどこかで聞き及んでおり,主人公が秦の軍隊と戦うストーリーなのだと自分の中で勝手なイメージが形成されていたのだが,果たして実際は主人公が秦の国のために兵士として戦う物語であった。

映画のストーリーは秦王政が弟成蟜(せいきょう)の起こした反乱と討伐する中で,主人公である戦争孤児の信がその武を発揮するというものである。

話の内容はまとまっており,流れも不自然ではなかった。大沢たかお演ずる王騎の刺青や,橋本環奈演ずる河了貂の性別など気になるところがないではなかったものの,恐らくはこの後の話の中で明らかにされていくことなのだろうと思う。竹林で遭遇した戦士が一人でどこから来たのかの謎についてはよく分からなかったが。政と信が国王と奴隷という身分の違いにもかかわらず直接に馴れ馴れしく話をするところなどは驚かされはするものの,全体として登場人物たちは堅苦しい言葉遣いをせず,柔らかい現代日本の口語調で言葉を紡いでいたから,これが本作のノリと雰囲気なのだと思えばそんなに悪いものでもなかった。

どうしても1点不満点を挙げるとするならば,エンディングテーマである。曲はONE OK ROCKの「Wasted Nights」というものだ。先にも述べた通り登場人物の台詞は現代日本の口語調であり,カタカナ語や明治以後造られた和製漢語などは極力排されていたように私には感じられ(実は和製漢語に関しては聞き逃していただけで多用されていたかもしれない。「夢」を将来実現したいことの意味でキーワード的に用いていた場面もあり,これが紀元前中国にも同じ意味で存在したかはよく分からないが,これについてはいまいち参考になる文献が見当たらないのでここでは措く),その辺りは中々気を使った脚本だったように感じた。そのような内容であったが故に,場面が最後に暗転してから流れ始めたエンディングテーマの歌詞の出だしが耳に入ったときの落胆といったらなかった。別にONE OK ROCKというバンドが悪いだとか,Wasted Nightsが悪い曲だというのではない。ただ,外来的な表現を意識させぬよう丁寧に作られた映画『キングダム』という作品の全体をまとめ上げるエンディングテーマとして,歌詞の大部分が英語である本曲が妥当であったか,疑問が残るところである。