大体の本には奥付に版数と刷数が記載されている。大学でレポートなり論文なりを執筆する際には文献の引用を正確にするよう指導教官から口を酸っぱくして言われるが,この引用の際,書籍の場合はその本の版数も必要となると教わった。というのも,版数が変われば原版に大きな変更があったはずだから,何版の何ページを引用したのかが分からないと正しく参照できないためである。では刷数は何かといえば,その版を使って何度本が刷られたかを示しているとされているようであり,細かな誤字等の修正が入っていても内容に違いはないはずだから,引用に当たって刷数までは明記しなくてよいとされた。
だがしかし,このような版数と刷数の違いはあくまで一般的な原則とでもいうべきもので,つまりそこには例外も存在しているようである。
いちばん手近な例としては,私が昨日ちょうど1冊を読み終えた中公新書がある。中公新書はどうも刷数と同じ感覚で刷数を使用しているようで,『韓非子』*1を例にとれば,この本は初版が2003年で,私が読んだ再版が2008年である。ツイッターを見てみるとどうも2018年に第3刷が出されたらしい*2が,これが果たして現物の奥付にどう記載されているのか確かめてみたい。
冨谷至著『韓非子』の重版が決定です。3刷となりました。『韓非子』55篇を読み解くのみならず、マキャベリ、ホッブズらの西洋思想と比較して、いまなお輝きを放ち続ける「究極の現実主義」の本質に迫った一冊です。 pic.twitter.com/sFJPRXRWkN
— 中公新書 (@chukoshinsho) May 23, 2018
単に再版第3刷のことを言っているだけとも考えられるけれど,手持ちの中公新書は押しなべて刷数の表示がなく,代わりに(本来は代わりではないのだろうが)版数の記載があるだけである。今読んでいる『教養主義の没落』*3は,初版が2003年,第17版が2017年である。刷数の表示はない。もしかすると2018年から奥付の記載方針が変わったのかもしれないが,2018年以降発行の中公新書が手元にないため確認が取れない。初版が1970年代に出版された野崎昭弘著の『詭弁論理学』は割と最近出版された改版を購入したものの,現状手元になく,奥付の記載を確認できない。
以前どこかで何かの本を引用するのに「初版○○版」などと記載されていたものを見た覚えがある。広辞苑の初版を図書館で見たときに50何版などと記載されていたから,そのような書物はたしかにこの表記法が幸便であると思われる。しかしそのような事情が分からなければ結局何版なのかわかりにくい気もするし,出版業者様には,何かこの表記出ないといけない理由がないのであれば,どうにか表記の統一を図っていただきたいと思う次第である。ただ(,このエントリーでは別に進んでそうしろと言っているわけではないことは分かっていただきたいが),辞書や新書の記載を一般のレポートや論文に引用するのはあまり行儀がよくないというご意見は,まあもっともだと思われる。