CVに引きずられる

CVというのは,キャラクター・ヴォイスの略称である。アニメーションやヴォイスドラマの登場人物に声を当てている人のことを指す用語である。本職の方にはあまりこの呼び方を気に入っていない人も多いと聞くが,広く人口に膾炙しているようであるから,ここでもこの語を使おうと思う。

昨今は非常に多くのアニメーションが作られている。それらはすべてがオリジナルというわけではなく,漫画やライトノベルを原作に持つものも当然たくさんある。漫画や小説のアニメ化は原作を知る者にとって楽しみであると同時に,不安に駆られる材料でもあると私は考えている。

私が漫画や小説を読むとき,登場人物のセリフが頭の中で声を伴って再生されている。それは必ずしも,今までに聞いたことのある声であるとか,特定の声優/俳優の声であるというわけではなく,自分にも誰の声であるのか特定できないことが多い。しかし,同じ登場人物は毎度大体同じ声で再生されているように感じる。要は,キャラクターごとに私がイメージする声があるということである。

この脳内再生される声のイメージのことを普段気にかけることはまずないのだが,どうしても意識せざるをえないときがある。それが,その作品がアニメ化するときである。

初めにアニメありきで漫画なり小説なりを読み始めたときには,当然キャラクターのイメージヴォイスもアニメで当てられた声になる。しかし,その逆の場合。それまで読んできた作品がアニメになるときは,私の脳内で非常にショッキングなことが起こってしまう。すなわち,これまで脳内で再生され続けていたキャラクターのイメージヴォイスが,アニメの声に引きずられ,上書きされてしまうのである。

実際にキャラクターに声がつくことのインパクトは,私にとって非常に大きい。イメージヴォイスは私の脳内にしかなく,曖昧としていて,ひょっとすると抽象的であるのに対して,アニメの声は,絶対的で,確固たる具体のものとしてそこに存在するのである。

そこで上書きされてしまった私だけのヴォイスイメージは,ほどなくして記憶からも消え去ってしまう。あの頃の声を二度と思い出せなくなることが,私はとても悲しい。